ドライバーの精神状態と事故の関係
思い過ごしは交通事故を招く? 精神状態などと書いてしまうと立派な肩書きのあるドクターのようですが、私は単なる自動車評論家にすぎません。自らが事故を起こしてしまった際の精神状態を回顧しているだけなのです。 その一度きりの横転全損事故が今日の私に与えた影響は大きく、私の中に交通評論家という立場のジャーナリズムを生む発端となっていることは間違いありません。 さて、私が115km/hの速度でハンドルを一気に左にきりこんでしまった結果、マイスバルにはいかなる事態が発生したのでしょう。当時の私には想像すらできない非常事態だったのですが、今でもその時の状況はスローモーションのように脳裏に焼き付いています。 運転していたのは私で、助手席にはS・Mさんという女性、運転席の後にはN・Sさんという女性が乗っていました。3名ともシートベルトは着用していませんでした(着用が義務付けされる以前のことです)。 私がステアリングを一気に左にきりこむと同時に強烈な右方向への横Gが発生しました。そのGで助手席のS・Mさんが私の膝に倒れ込んできたのですから、かなり強烈です。 RR方式(リヤエンジン・リヤドライブ)だったマイスバルは耐えきれず、一気に右方向へのテールスライドを起こしました。ステアリングを握りしめたまま私はアクセルを全閉にしたのです。するとどうでしょう。今度は一気にマイスバルは右を向きました。 その瞬間、私はクルマをコントロールする事を諦めたのか、助手席のS・Mさんを左手で力いっぱいに抱き締めました。リヤシートのN・Sさんはドライバーズシートごと私に抱きついていました。右に向きを変えたマイスバルはちょうど追越車線に並びかけてきたシルビアにフロント右から激突。 すでにマイスバルのステアリングを握るのは私の右手一本。おそらく本能的にシルビアを避けるためにステアリングを一気に左にきり直したのだと思います。車重のあるシルビアに跳ね返されたマイスバルは激突直後に運転席側から横転し、左斜め前方に向かって3回転してルーフから路肩の盛り土に当たって、進行方向とは逆向きになりながらも、上下関係は正しく起き上がって停車しました。 横転した1回転目から2回転目にかけて、S・Mさんを抱き寄せていた私は体が進行方向に対し左向きとなったために、右肩を路面に擦りました。その間、S・Mさんは私の腕の中にいた筈なのですが、路肩で停車した時には助手席にちょこんと座っていたのです。 リヤシートのN・Sさんは最後までドライバーズシートにしがみついていました。ルーフに頭をぶつけて軽い脳しんとうを起こしていた私は、2人に声をかけました。何を言ったのか覚えていませんが、放心状態ながら2人とも何かを言っていました。 運転席側の窓から外に出ようとゴソゴソしていた私のところにカローラのドライバーさんが駆け寄ってきました。「生きていたのかぁ〜」「同乗者もいたんだ」「みんな大丈夫なのか・・・」と興奮ぎみに叫びながら肩をたたかれた記憶がかすかに残っています。あたりを見回すと、路肩に停車したマイスバルの後ろに、さっき追い抜いたカローラ、マイスバルと激突した反動で分離帯のワイヤーロープに衝突して追越車線上に停車したソロバンシルビアが見えました。 しばらく記憶が途絶え、交通機動隊のセドリックがやってきました。S・MさんとN・Sさんが助手席側から自力で降りてきた姿を見て、いきなり気が遠くなったのはよく覚えています。私たち3人を守ってくれたマイスバルのカーステレオからは、メジャー街道まっしぐらだったサザンオールスターズの「思い過ごしも恋のうち」が流れていました。 | |
次に起こる事を 経験的に予知する(実践編) 交通事故を回避するには、運転技術としての「ドライビング」と交通事故を起こさない「運転の知恵」が必要であると考えます。前者はエマジェンシーへの対処、後者は交通事故を避けて通るための予防です。もちろん最も現実的方策は後者です。 事故を起こす数時間前に学んだ、流れに乗って走る事。これは走行車線では良かったのですが、追越車線では駄目でした。360ccのスバルでは後続車が追い付いてきたら、意に反しても即座に走行車線に戻るべきです。高速道路を多く走るトラックの行動を見ていると理解できます。 トラックのうち7割は追い越し終了後、追越車線から走行車線にすみやかに戻ります。基本マナーを理解しているトラックドライバーはペースを維持して走るために強引な割り込みはしてきますが、数珠つなぎ走行時をのぞき追越車線を走り続ける事は少ないのです。私は大型トレーラーの前に入るのが恐くても、すぐに走行車線に戻り、次なる車線変更のチャンスを待つべきでした。 次に「法定速度を35km/hオーバーして走っているのに何故あおってくる!」という勝手な思い込みで、シルビアドライバーの心理を読めなかった事。怒り爆発で急ハンドルをきるという結果は全く弁解の余地のない愚の骨頂です。この事故でマイスバルが陥った状態を通称「タコ踊り」といいます。 運転の荒いトラックドライバーなど首都高速走行中に見かけることがあります。ハンドルを急激にきりこみ過ぎて、車体が左右に振られる状態です。「タコ踊り」を知らない方が端から見ると、大きな車体を揺すって他車を威嚇しているように見えるのですが、実体は冷や汗流しながら必死でステアリングにしがみついています。今度見かけたら大きな声で笑ってあげましょう。「タコ踊り」については次回に持ち越しますから、それまでは実験を避けてください・・・ 「単独であっても80km/hで走るよりも100km/hで走る方が事故に巻き込まれるリスクは減ります」と書きました。これは多くのドライバーの心理状態を考えてのことです。 速度差の認識と予知(前編)で書きましたが、渋滞を緩和することはドライバーのイライラ解消に大いに役立ちます。さらに、居眠り運転や過労運転のドライバーの運転するクルマが背後に100km/hを超えて迫ってきたとしましょう。速度差を認知できないドライバーは追突するか、避けられてもまわりのクルマを巻き込んで多重事故を起こす可能性があります。 彼女とケンカしてイライラしているクルマが猛スピードで接近してきたとしましょう。車線が塞がっていて追い越す事が出来ない場合、ほぼ間違いなく、そのクルマは前走車をあおってきます。速度差が小さい方が精神不安定ドライバーでも隙間を縫いやすいですし、とりあえず加速して隣を走るクルマとの並走を避け、すりぬける隙間を作ってやる場合には100km/hの方が都合よいのです。 もちろん事前に後続車両の動向を察知する注意深さが求められるのですが、制限速度どおりに走っている人ほど後続車を見ている余裕がなかったり、遵法速度を盾に後続車両を無視することが多いようです。 |
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