交通事故をドラテクで回避できるのか?




タコ踊りって何だろう

 サーキットはもちろん、ワインディングロードで走りを楽しむなんて、とんでもない! という方々は、しっかりと読んで知っておいて欲しいですね。知っていれば交通事故を回避できるという訳ではないですが、知らないよりはイイと思います。
 言葉の由来は定かではないのですが、クルマがドライバーの意に反して右に左にヒラヒラしてしまう状態を「タコ踊り」と言います。その原因は急激に左右どちらかのサスペンションが、ドライバーの急なステアリング操作によって、ハイスピードでバンピングした際に、そのバンピングしたサスペンションが反動でハイスピードで伸びる事に起因します。
 スポーツタイプのサスペンションがリバウンド側のショック減衰力を高める理由はここにあります。説明をさらに簡単にしましょう。手の力で縮められるバネを思い浮かべてください。バネをゆっくりと縮めてゆけば、そのままバネを縮めた状態のまま腕力で維持できるでしょう。ところが反動をつけて一気にバネを縮めてみてください。間違い無く腕力では抑えきれない強い反力を受けてバネを抑えきれなくなります。
 クルマのサスペンションの場合はバネの伸び縮みする速さをショックアブソーバーの減衰力で抑え込んでいるのです。つまりクルマのサスペンションの場合には、ショックアブソ−バーやスプリングが柔らかいほど、車両重量が大きいほどタコ踊りは起こり易くなります。

 実際に「タコ踊り」が起きてしまったらどうしましょうか? 最も有効なのはステアリングをしっかり握りしめてアクセルを踏む力を大きく緩めないことです。もしアクセル全開状態で「タコ踊り」に陥ってしまったら、アクセルは3割くらい緩めます。
 アクセルオフの状態で急ハンドルする機会(エマジェンシーの操作は別にして)は意外に少ないのですが、もしそういう事態に陥ったらアクセルを50%あけましょう(ハーフアクセル)。するとクルマの駆動輪にトラクションがかかり、また前後のタイヤに大きい荷重移動が起きないので、クルマの挙動は穏やかになるのです。
 アクセルを乱暴にオンオフするとクルマが前後に揺れてしまいますから、この逆だと思えば理解し易いでしょう。アクセルオンだと荷重はリヤより、アクセルオフだとフロントよりになります。フロントにはステアリング機能がありますから、荷重がフロントよりになるとクルマはステアリングにシビアに反応するようになります。荷重をできるだけリヤ寄りに維持する方法はアクセルオンを保つことです。



テクニックで危険を回避?

   当時は「タコ踊り」の挙げ句に他のクルマと接触して横転してしまった私ですが、もし今同じ状況に陥ったら、私にマイスバルの事故は回避できるのでしょうか? 答えはイエス。私の事故に関して言えば、ドラテクで危険回避は可能だったのです。モータージャーナリストとなってからの私の持論である「サーキットで走るドライバーは事故を起こし難くなる」という説の根拠のひとつです。他にも色々理由がありますが次の機会にします。
 さて実際に優れたドライビングテクニックによって本当に交通事故を回避出来る場合があるのか? 多くの方が疑問をお持ちでしょう。解りやすい例はアンチロックブレーキシステムの普及です。急ブレーキによってタイヤをロックさせない装置です。
 説明の必要はないと思いますが、フロントタイヤが急ブレーキによってロックしてしまうと、ステアリングを右にきりこんでも左にきりこんでもクルマはまっすぐ進んでしまいます。つまり急ブレーキの場合でもフロントタイヤを完全にロックさせてはいけないのです。
 タイヤをロックさせるとブレーキを踏んでからクルマが停止するまでの制動距離が伸びてしまう事もお馴染みですね。私のようなレーシングドライバーの多くは、アンチロックブレーキシステムの装着されないクルマに乗った時でもブレ−キロックぎりぎりのところでブレーキペダルをコントロールする能力を持っています。つまり、この世にアンチロックブレーキシステムが存在しなかった頃は、ドライビングテクニックがあるほど交通事故回避能力が高かったと言えます。トラクションコントロールなども同じですが、今のクルマはハイテクによってドライバーのテクニック不足をカバーしています。
 結論。ドライビングテクニックは間違いなく交通事故回避に役に立ちます。直接的ではない事もあるし、個人差はありますが、サーキットスポーツの享受は交通事故回避に役立っている事を自負して、私はサーキットドライビングにかかわる仕事をしているのです。
 さて、自慢話はこのくらいにして、本当にお分かりいただきたいのはここからです。ハイテクによってドライバーの運転技術の未熟さはカバーできます。『交通事故を回避するには、運転技術としての「ドライビング」と交通事故を起こさない「運転の知恵」が必要である』と申し上げました。
「運転の知恵」は現状では教わるか、自ら経験するよりほかはありません。もし皆さんの愛する人が交通事故の犠牲者となった時のことを考えて欲しいのです。ドライバーは、いつかは被害者、いつかは加害者になる可能性をもって走っているのです。


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