2001年の緊急提言「これでいいのか交通行政」


2001年4月10日(火曜日)東京新聞18面



「大型トラックが起こす交通死亡事故の発生率は普通車の約23倍にも達するという。悲惨な大型トラック事故を減らすため国土交通省は速度抑制装置の義務づけを決めた。車両の構造自体にメスを入れ、物理的に速度を抑える異例の措置だ。しかし、大型トラックだけを“亀の足”にして本当に事故は減るのか−」(見出しの問題提起部分を抜粋)
注)この原稿は東京新聞にメール送信されていますが、特別な承認は取っておりません。


 既に決定されてしまった事ですが「交通事故を避けて通る」という観点から、すなわち行政の立場からではなく、納税者であり行政サービス受益者である個々のドライバーの立場から考えてみたいと思います。スキャニングした新聞記事では読みにくいですから、最初に要点を抜粋しながら進めましょう。全日本トラック協会交通環境部のコメントの中に「同じ高速道路で走りながらトラックだけが速度抑制され現実的に安全が保てるのかという疑問があります。トラックが乗用車や、同じ大型車でもバスにも抜かれていくことになります・・・(以下略)」というのがあります。
 さらに日本道路公団出身の交通評論家・播磨荘一郎氏のコメントの中にも「交通とは川の流れに似ていて、一定のスピードであることが大事です。途中で変化があったり障害物があったりすると事故の余地が出てくる。トラックだけが別の速度であれば流れを壊す恐れもあります。物理的に速度を抑えるという小手先の方法でどこまで事故を減らせるか疑問です」とあります。
 表現は違いますが、同じ論拠に立つ2つのコメントの中には、意識的かもしれませんが、根本的に評論の矛盾点があります。今回の速度抑制装置は時速90km/hで作動するものですから、その対象となるのは基本的に高速道路ということです。道路交通法では、大型貨物自動車の高速道路における最高速度を80km/h、大型乗用自動車と乗用車の最高速度を100km/hと定めています。つまり道路交通法遵守の立場から評論すれば、この記事に掲載されているコメントは全く意味を成さないことになります。つまり「トラックが乗用車やバスに抜かれる」のは当然の事、「トラックだけが別の速度であれば流れを壊す」のは当たり前なのです。私の言う矛盾点とは、この記事に掲載されたコメントは『トラックは80km/hの制限速度を遵守しない』ことを前提に書かれているという事です。
 あくまでも私が緊急提言を執筆するキッカケに過ぎませんから本題とは別の問題ですが、基本的に道路行政や交通環境の専門家は、高速道路におけるトラックの最高速度が80km/hであることを承服していないのではないでしょうか。いや、承服していても「法適用の意味を成さない」と考えているのでしょう。

 今回の速度規制の根拠はあくまでも道路交通法であり、トラックの高速道路における最高速度が80km/hである事に基づくのです。国土交通省の担当者に取材したわけではありませんが、おそらく「80km/hの最高速度をトラックドライバーが守れないのであれば、ハード部分であるクルマで速度規制するしか方法がない」という主旨の回答が得られると予想します。今回の規制決定を知って、私が最初に思い浮かべたのは20年ほど前の「高校生のオートバイ3ない運動」。高校生による交通事故撲滅および暴走族撲滅を目的とした、保護者の立場からのキャンペーンでした。
 つまりトラックドライバーに90km/hを超えて走れるトラックを与えなければ事故抑止になるという事で、ドライバー教育も高校生教育も同じように考えられているのです。私は実際に高校生の時にオートバイに乗り(規制される直前)、早くから道路交通に関する知識や経験を積みました。私が多くの事をオートバイから学んだ代償として、予備校進学という憂き目を見たのは事実ですが、オートバイには全く興味のない多くの学友たちも一緒でしたから、今でも早くからオートバイに接した事は意義あることであったと考えています。ただし高校生という社会的な立場を考えれば、規制する事にも一定の理解が得られるでしょう。これを立派な成人であり、社会人であるトラックドライバーに当てはめる事をどのように考えるべきでしょう。個々のトラックドライバーやトラックを運行する様々な運送会社等が、学ぶ事や教育すべき事は数多くある筈です。徹底すれば1台あたり約20万円の無駄なコストが削減出来て、かつ優秀なトラックドライバーを数多く育てることが出来るのです。

 国産車で180km/h以上の最高速度を出せる性能を備える乗用車には、新車時に速度抑制装置が取り付けられています。今回の大型トラックの速度抑制装置は普通乗用車の抑制装置を110km/hで作動するようにしたのと同じ事です。もちろん事故のリスクを考えれば、自重と積載量の大きいトラックが危険であるのは自明の理ですが、トラック1台あたり約20万円を要する速度抑制装置取付費用に相当する経済的効果は、もっと広く考えられ、深く検討されるべきです。さらに速度抑制装置を正しく作動させたままで運行するトラックが何台いるでしょう?
 車検時に検査を受ける事になるようですが、車検時だけ装置を作動させるのは易しいと思われますし、また新しい検査装置や新種の取り締まりに費用と時間をかけるくらいなら、他に出来る事はたくさんあるでしょう。
 前出の播磨氏は「日本の物流におけるトラック輸送への依存が高くなり、輸送業者間の競争も激化する中で、運転手には過酷なスピードが求められている。速度が抑えられても、運転手は別の無理をする。睡眠時間を削るとか、危険な近道をするとか。真に事故を減らすには、流通のあり方も視野に入れて総合的に検討していかなければならないのですが・・・」と結んでいます。
 私はさらに加えて道路行政のあり方、自動車運転免許制度のあり方、取り締まりや規制の方法などに深く踏み込まなければ、交通事故の根本的な解決はないと考えています。もちろん「交通事故は避けて通れる」の連載を通じて提唱しているドライバー個々の意識とも深く関わってくることになるでしょう。連載企画の合間を縫って様々な取材を加えながら、具体的提案を織りまぜて、この問題に取り組んで行きたいと思います。

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